大判例

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東京高等裁判所 昭和35年(秩ほ)1号 判決

本件抗告申立の理由の要旨は、原決定は事実の認定に誤認があり、ひいては法律の適用を誤つたものである。即ち、原決定は、抗告人は、昭和三十五年七月十一日午後一時四十分頃東京簡易裁判所刑事第一号法廷において東京地方裁判所刑事第十四部裁判官富川秀秋が被疑者岡部武に対する暴力行為等処罰に関する法律違反等被疑事件の勾留理由開示の公判中弁護人寺本勤が訴訟指揮に従わないためその身柄を拘束されるや、「不当だぞ」と大声を発して裁判所の職務の執行を妨害し、かつ、裁判の威信を傷けたものであるとし、抗告人を監置五日に処する旨の決定をしたのである。しかし、抗告人は、右公判を傍聴してはいたが、右裁判官が寺本勤弁護人に対し発言を禁止し更に退廷を命ずるとの訴訟指揮をしたことを目のあたりに見て右裁判官の措置が著しく弁護権を制限するものであると直感し、無意識的に「弁護権を制限するもの」と発言したことはあるが、その発言も決して大声ではなく、また「不当だぞ」等と発言したことは全くないのである。そして抗告人は、その発言の直後右裁判官の「誰だ発言した者に退廷を命ずる」との命令により直ちに退廷させられたのであり、職務の執行妨害とは、客観的に職務の執行妨害であると評価するに足りる言動が存在することを要するのであるが、抗告人の発言は、執行を妨害したものということはできず、また、抗告人が裁判官の訴訟指揮が弁護権を制限するものと考えてその旨の発言をしたことは、その発言の場所や方法の適否は別として裁判の威信を傷けるものではないのである、本来国民には、憲法上認められた思想言論の自由があるのであつて、右裁判官の措置が弁護権を制限するものと考え、このことを表現することは国民としては全く自由であり、ただ本件の場合は、その発言の場所や方法の適否が問題となるに過ぎず、右発言は、職務の執行の妨害となるとか裁判の威信を傷けるものとかいうことは、決していえないのである。それ故、右抗告人の発言に対し、法廷等の秩序維持に関する、法律第二条を適用することは違法であり、抗告人は、法律に定めた手続によらないで不当に監置されているのである。しかのみならず、抗告人は日本国民救援会の北海道地方の代表者として他の九名の代表者とともに中国の人民救済会からの招請により、昭和三十五年七月十六日中国へ出発する予定であるから、抗告人が原審の裁判によつて五日間監置される場合は、右十六日に出発することも不能となり、ひいては、他の九名の代表者も出発することができなくなるのである。

よつて、原決定を抗告人の利益に変更されることを求めるため、本件抗告に及んだ次第であるというのである。

よつて按ずるに、法廷等の秩序維持に関する法律による制裁事件の裁判に対しては、その裁判が法令に違反することを理由としてのみ抗告を申し立てることができるものであるところ、右抗告理由の前半は、原決定が事実の認定を誤つているとの主張に帰するのであるから、この点に関する主張は、抗告適法の理由とはならないが、抗告理由の後半の部分は、原決定は、憲法上認められた思想言論の自由を侵害するものであつて違法である、というのであるから、この点について判断を加えることとする。

憲法第二十一条にいわゆる表現の自由は、憲法がこれを無制限に許可しているものではなく、国民は同法第十二条によつて常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負い、その濫用を禁ぜられているのであるから、公開の法廷において原審が抗告人について認定したような発言をすることは、表現の自由として、憲法の保障しているものと解することはできない。従つて、原審が抗告人の行為に対し、法廷の秩序維持に関する法律第二条を適用し、抗告人を監置五日に処したのは決して違法ではなく、また、その処分が不当であるということはできないのである。

(下村 高野 真野)

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